
遺言でできる主な法律行為(法定遺言事項)は、財産行為だけでなく、身分の関することや祭祀承継に関することなども指定することができます。具体的にあげると以下のとおりです。
遺言でできること一覧
| 区分 | 具体的内容 |
|---|---|
| 相続に関すること | 〇相続分の指定(民法902条) 被相続人(亡くなった人)が遺言によって、法定相続人それぞれの「取り分(相続分)」を決めることです。遺言がない場合は民法の定めに従い、例えば:配偶者と子がいる場合 → 配偶者 1/2、子 1/2(子が複数なら均等に分割)、配偶者と父母 → 配偶者 2/3、父母 1/3、配偶者と兄弟姉妹 → 配偶者 3/4、兄弟姉妹 1/4となりますが、遺言で「配偶者に 2/3、長男に 1/3を相続させる」といったように、法定相続分とは異なる割合を指定できます(遺留分については別途)。 〇遺産分割方法の指定・禁止(民法908条) 被相続人(亡くなった人)が遺言によって財産を相続人の間で「どのように分けるか」を具体的に決めることです。単なる「割合(相続分の指定)」ではなく、財産ごとの分け方まで指定できるのが特徴です。「〇〇銀行の預貯金のうち2000万円を妻に相続させ、1000万円を長男に相続させる」、「不動産は売却して代金を等分にする」、「自宅は長男と次男で共有にする」などの指定が可能です。 〇特定財産承継遺言(民法1014条) 特定財産承継遺言は「遺産分割方法の指定」の一形態であり、相続人間の遺産分割協議を不要にする効果があります。「自宅の土地と建物は長男に相続させる」、「預金口座〇〇銀行△△支店の残高は妻に相続させる」、「株式□□株式会社100株は次男に相続させる」などです。 〇遺贈(民法964条) 遺言によって、相続人以外の人や団体に財産を与えることをいいます。相続は「法律で決まった法定相続人」に財産が承継されるのに対し、遺贈は「遺言で指定した人」に財産を渡す制度です。「友人Aに私の財産の3分の1を遺贈する」(包括遺贈)、「私の自宅をNPO法人に遺贈する」(特定遺贈)などです。 〇遺留分に関する意思表示(民法1047条) 遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に保障される「最低限の取り分」で、遺言によって財産を偏って分けても、相続人が生活に困らないように保護する制度です。遺留分の割合は、子や配偶者 → それぞれ法定相続分の 1/2、直系尊属 → 法定相続分の 1/3です。 「遺言における遺留分に関する意思表示」とは、遺留分を侵害する内容をあえて指定する場合、遺留分に配慮した分け方を示す場合、及び遺留分請求を控えてほしいという希望を付言する場合などを指します。例えば、「長男に全財産を相続させる」など、他の相続人の遺留分を侵害する内容を記載することは可能ですが、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」を行う権利を持つことになります。 |
| 身分に関すること | 〇子の認知(民法781条2項) 認知とは、婚姻外で生まれた子を「自分の子」として法律上認めることです。これにより親子関係が成立し、子は相続権を持つようになります。遺言の中で「○○を私の子として認知する」と記載することで、本人の死亡後に効力が発生しますので、生前に認知届を出さなくても、遺言で認知の意思を残すことが可能です。なお、認知は遺言者の死亡後に効力が生じるため、生前に親子関係を築くことはできませんが、認知された子は正式な相続人となり、相続権や遺留分を持つことになります。 〇推定相続人の廃除・取消(民法893条・894条) 被相続人(遺言者)が、相続人となるはずの人(推定相続人)について、著しい非行や虐待、重大な侮辱などがあった場合に相続権を失わせる意思表示をすることです。遺言で「○○を相続人から廃除する」と記載し、または生前に家庭裁判所へ相続人の廃除を請求する必要があります。遺言者の死亡並びに家庭裁判所の審判によって廃除が確定すると、その相続人は相続権を失うこととなります。 但し、廃除には一切の相続権を失わせるという重大な効果があるため、家庭裁判所で簡単に認められるものではありませんので十分な検討が必要です。 遺言で相続人を廃除することも取り消すこともできますが、裁判所の審判を経て初めて効力が確定することに注意が必要です。 〇未成年後見人・後見監督人の指定(民法839条・848条) 未成年後見人とは、親が亡くなった後に未成年の子がいる場合、その子を監護し、財産を管理する人(未成年後見人)を遺言で指定できる制度です。遺言書に「私は○○を未成年後見人に指定する」と記載します。 未成年後見監督人とは、未成年後見人を監督する立場の人であり、遺言で指定することができます。遺言書に「私は○○を未成年後見監督人に指定する」と記載します。 この未成年後見人並びに未成年後見監督人の指定は一つの遺言書の中に同時に記載することが望ましいでしょう。なお、いずれも遺言者の死亡後に効力が生じ、家庭裁判所の審判を経て正式に後見人、監督人となることになります。 |
| 遺言の執行に関すること | 〇遺言執行者の指定(民法1006条) 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされ、遺言書に記載された内容について具体的な事務を執行する人です。遺言書に記載された被相続人の意思を被相続人に代わってその実現を図る一切の責任と権限を有しています。未成年者と破産者以外であれば誰でもなることができ(相続人も可)、行政書士などの専門家を指定することもできます。なお、遺言執行者の指定がない場合には、家庭裁判所による選定が必要となります。 具体的な業務 ・財産目録の作成・交付:相続財産を調査し、目録を作成し、それ各相続人に通知。 ・不動産の名義変更(相続登記):遺言に従い相続による所有権移転登記等を行う。 ・預貯金の解約・分配:銀行口座の解約や払い戻しを行い、遺言に従い分配。 ・遺贈の履行:相続人以外への遺贈がある場合の実行。 ・相続人廃除や認知の手続き:これらの手続きは相続人ではできないため、遺言執行者が行う。 〇遺言執行者の報酬に関する定め(民法1014条・1018条) 遺言書に遺言執行者の報酬について具体的金額の記載があればその金額が報酬となります。遺言書に記載の金額がない場合には、相続人との協議又は家庭裁判所への申し立てにより適正金額を算定して報酬とします。 |
| その他 | 〇祭祀承継者の指定(民法897条) 祭祀承継者とは、先祖の供養やお墓・仏壇などの「祭祀財産」を引き継ぎ、管理・主宰する人のことです。 民法第897条に基づき、系譜(家系図)、祭具(仏壇・位牌・神棚など)、墳墓(墓地・墓碑など)は通常の相続財産とは別扱いで、相続人の分割対象には含まれず、祭祀承継者が一括して承継します。また、相続財産とは別扱いなので、遺産分割協議の対象外となります。 慣習に従って定めるほか、遺言書に記載することでも定めることができます。なお、慣習が明らかでない場合には家庭裁判所がさだめるkともあります。 〇保険金受取人の変更(保険法44条) 保険金受取人の変更は、遺言によってもすることができるとされており、遺言書の記載によって受取人を変更することが可能です。但し、この法律は平成22年4月1日施行ですので、それ以前の保険契約については適用されませんので注意が必要です。また、遺言書で保険金の受取人を変更した場合には必ず保険会社に通知しておく必要があります。通常、保険会社は遺言書の内容を知らないので、保険会社が元の受取人に支払ってしまうからです。元の受取人に保険金が支払われた場合、変更後の受取人は保険会社に請求することができません。 〇一般財団法人設立(一般社団・財団法人法152条) 遺言による設立の場合、遺言書に「一般財団法人を設立する旨」と「定款の内容」を記載し、遺言執行者がその遺言をもとに定款を作成し、公証人の認証を受けることになります。具体的な記載内容としては、定款に必ず記載すべき絶対的記載事項として、目的(法人の活動目的)、名称(法人の正式名称)、主たる事務所の所在地、財産の基本財産の額(財団法人の場合、設立時に拠出される財産)、設立に際して拠出される財産の内容とその価額、理事・評議員の員数、選任方法、任期、公告の方法(官報やウェブサイトなど)です。 遺言執行者は遺言を基に定款を整備し、公証人認証を受けて法人設立を行うこととなります。 〇信託の設定(信託法3条2号) 遺言書により信託を設定することができます(遺言信託)。遺言による信託には、民法の遺言に関する規定が適用され、遺言による信託の効力が発生するのは遺言者の死亡時です。 たとえば、配偶者が認知症であるとき、子を受託者として、遺言者の死後に相続財産を認知症配偶者の生活のために活用するように指定することができます。これは単なる遺言では財産の承継先しか定められませんので遺言による信託は有効な方法です。 |
※上記のうち、財産の分け方については相続人全員の話し合いで変更できますが、認知や後見人の指定、遺言執行者の指定などは遺言者の意思に専属するため、合意で変更することはできませんので注意が必要です。
遺言書でできること、行政書士にご相談ください
遺言書は、財産の分け方を決めるだけのものではありません。行政書士に相談することで、次のような幅広い内容を遺言に盛り込むことができます。
- 相続財産の分配方法の指定
不動産・預金・株式などの承継先を明確にできます。 - 遺言執行者の指定
遺言の内容を確実に実現するための執行者を選任できます。 - 祭祀承継者の指定
お墓や仏壇などの祭祀財産を承継する人を決められます。 - 認知や相続人廃除
法的に重要な身分関係の変更も遺言で可能です。 - 寄付や法人設立
財産を社会貢献に活かすため、公益法人や一般財団法人の設立も遺言で実現できます。
行政書士は、これらの手続きを法律に基づいて正確にサポートし、「遺言の力で安心を形にする」お手伝いをいたします。
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