遺言書の作成について、準備から作成上の概要、注意点を整理します。

遺言書の作成準備
遺言書を作成する前の準備は、「誰に」「何を」「どう渡すか」を明確にするための大切なステップです。
財産の棚卸し
ご自身の財産について整理し、目録を作成します。民法の改正により、財産目録はパソコンでの作成も認められることとなりました。
- 不動産(登記簿・評価証明書):登記簿謄本、固定資産評価証明書等を取得して、不動産を特定できるようにします。
- 預貯金(銀行名・支店・預金種別、口座番号):複数の銀行口座を持っている場合には、それぞれについて通帳、キャッシュカードの有無、印鑑なども確認します。また、ネット銀行についても漏れなく洗い出すことが必要です。
- 株式:銘柄名、証券会社名、保有株数をそれぞれ整理します。
- 投資信託:ファンド名、証券会社名、口座番号、保有口数を整理します。
- 車・オートバイ・船舶:車、オートバイは「車種」「登録番号」「車台番号」を、船舶は「船舶番号」「船名」「登録港」を明記します。なお、相続した場合には、車、オートバイは陸運局、船舶は国土交通省の船舶登録簿での名義変更が必要となります。
- 宝飾品・貴金属:宝飾品は「種類」「特徴」「鑑定書番号」などで特定できるようにすること。貴金属は「種類(金・銀・プラチナなど)」「重量」「形状(延べ棒、コイン、アクセサリー)」で特定できるようにする。
- 美術品・骨董品:美術品は作品名、作者名、制作年、サイズ、鑑定書番号、展示歴などを明記。骨董品は種類(陶磁器、掛軸、家具など)、特徴(時代、産地、銘)、鑑定書番号などで特定できるようにする。なお、美術品・骨董品は保管・引渡し・売却に専門的知識が必要なので注意が必要です。
- 借金や保証債務も忘れずに:借金は金融機関名、契約日、残高、契約番号を明記。保証債務は保証先、契約内容、保証額、契約日を明記します。なお、借金や保証債務は相続人の「相続放棄」や「限定承認」の判断材料にもなる点についても留意しておく必要があります。
相続人の特定、受遺者の選定
財産を譲りわたす相続人を特定し、受遺者を選定します。相続人の特定、法定相続人以外で財産を譲りたい相手について整理する必要があります。遺言書で「誰に財産を渡すか」を選定する際には、単に希望する相手を指定するだけでなく、法律上の制約や実務上のリスクを踏まえることが重要です。また、遺言書においては「相続人」や「受遺者」を記載する際には、誤解や紛争を防ぐために特定性・法的効果・実務上の配慮が重要です。
相続人
相続人とは、民法で定められた相続財産を相続する権利を持つ人のことです。具体的には民法第887条、第889条及び第890条で定められています。配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹が相続権を持っていますが、相続する権利を持っているということであり、遺言における相続人の選定については、必ずしも相続財産をわたさなければならないということではありませんので、特定の相続人だけに相続させる、相続させないようにすることも遺言書上では可能ですが、遺留分権利者については考慮する必要があります(遺留分については「相続」のページの記載をご参照)。
- 配偶者(法律上の婚姻関係が成立している配偶者):常に相続人となります。なお、事実婚の配偶者、内縁関係の配偶者は含まれません。
- 子:嫡出子・非嫡出子・養子を含みます。また、遺言による「認知」をした場合にも遺言の効力発生の時から子となりますので相続人となります。
- 直系尊属(父母、祖父母など):子がいない場合に相続人となります。
- 兄弟姉妹:子、直系尊属がいない場合に相続人となります。
受遺者
受遺者とは、遺贈により財産を取得した人のことです。具体的には遺言によって財産を受け取る人のことです。相続人以外の第三者(内縁の配偶者、友人、法人、団体など)も受遺者となります。
遺言書で相続財産をわたしたい相手を選定する場合の注意点
法的観点
- 相続人の範囲は?
配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹が法定相続人ですが、遺言では相続人以外の第三者に渡すことも可能(遺贈)。 - 遺留分の存在
配偶者・子・直系尊属には遺留分が保障されているため、遺留分を侵害すると「遺留分侵害額請求」が可能となります。 - 「相続させる」と「遺贈する」の区別
相続人に渡す場合は「相続させる」、相続人以外に渡す場合は「遺贈する」と記載することで手続きが円滑になります。
実務上の観点
- 相手を特定できること
相手を氏名・生年月日・続柄・住所などで明確に特定できるようにします。法人や団体の場合は正式名称・所在地・法人番号を記載します。 - 公平性の配慮
遺言者の思い、考えを実現するように配分を考えますが、財産の種類や評価額、将来の変動等を考慮し、ある程度のバランスを取ることが大切です。 - 相続人以外への配慮
事実婚の配偶者や内縁関係者、友人、団体などは法定相続人ではないため、遺言で明記しなければ一切承継できません。そのような状況も考慮して決めましょう。 - 遺言執行者の指定
相続人以外に渡す場合や身分行為をする場合、複雑な分配をする場合などは、遺言執行者を指定しておきましょう。
分配の考えをまとめる
財産を棚卸し、相続、遺贈の対象者を選定したら、誰に何を、いくら渡すかをまとめます。
- 誰になにを渡すかを整理:相続人及び相続人以外に財産をわたしたい相手に対し、どの財産を、いくら、わたしたいのかをまとめます。例えば、長男にはい自宅の土地建物、配偶者には預貯金3000万円、長女には預貯金1000万円など、具体的に誰に、何を、いくらわたすかを整理します。
- 相続分の割合や遺産分割方法:相続財産が預貯金しかない場合など、配偶者に50%、長男長女それぞれ25%ずつなどのように割合を明記することもできますし、長男に自宅の土地建物、配偶者に銀行預金全額というように、相続人に対して偏ったわたし方もできます。但し、上述したように争族にならないためにもある程度のバランスを考慮する必要があります。また、「飼い犬を終生世話する代わりに1000万円遺贈する」など、負担付遺贈なども検討することができます。
- 遺留分(法定相続人の最低限の取り分)への配慮(上述のとおりです)。
遺言の方式を選ぶ
遺言の方式を選びます。それぞれの遺言書の特徴については以下の通りです。なお、それぞれの詳細は「遺言の方式」のページをご参照ください。
| 自筆証書遺言(民法968条) | ・全文・日付・署名を自書する必要がある ・財産目録はパソコン作成や通帳コピー添付も可能(署名押印が必要) ・メリット:費用がかからず、すぐ作れる ・デメリット:形式不備で無効になるリスク、自己保管では紛失・改ざんの恐れあり。 → 2020年から法務局での「自筆証書遺言保管制度」が開始され、紛失・改ざんの恐れなく安全に保管可能 |
| 公正証書遺言(民法969条) | ・公証人が遺言者の口述を筆記し、証人2名立会いのもと作成 ・メリット:最も確実で、無効リスクや紛失・改ざんの心配なし ・デメリット:公証人手数料(数万円程度)が必要、証人を2人確保する必要あり → 実務では安心・確実を重視する人に最も選ばれる方式 |
| 秘密証書遺言(民法970条) | ・遺言内容を秘密にしたまま、署名押印した遺言書を封印し、公証人と証人に提出 ・メリット:内容を誰にも知られずに作成できる ・デメリット:形式不備で無効になるリスクが高く、実務ではほとんど利用されない。 |
- 「自筆証書」「公正証書」「秘密証書」の3種類
- 確実性を重視するなら「公正証書遺言」、費用を抑えたいなら「自筆証書遺言」+「法務局保管制度」
書類の準備
遺言書そのものは「方式」に従って作成されれば有効ですが、実務上は 添付書類を整えておくことで、相続人や遺言執行者がスムーズに手続きできる ようになります。財産目録の作成等と合わせて以下の書類等を準備しましょう。
〇財産関係の資料
- 不動産登記事項証明書(登記簿謄本): 不動産の所在・権利関係を明確にするため
- 固定資産評価証明書:相続税・登記手続きに必要
- 預貯金通帳の写し:金融機関の特定を容易にする
- 株式・有価証券の証明書:証券会社や銘柄の確認用
〇身分関係の資料
- 戸籍謄本(遺言者本人、相続人関係):相続人の範囲を確認するため
- 住民票の写し:遺言者や受遺者の住所確認用
〇遺言執行に役立つ資料
- 財産目録(パソコン作成やコピー添付可、署名押印必要):自筆証書遺言では特に有効
- 保険証券の写し:生命保険金の受取人確認
- 借入金・負債に関する資料:相続人が債務を把握できるようにする\
遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言の内容を実現させるために遺言通りに執行する権限をもつ人です。遺言執行者には「遺言の内容を実現するために、相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限」があります。相続人である配偶者や子供などの親族も指定できますし、行政書士などの専門家を選任することも可能です。
遺言執行者の権限
- 遺言内容の実現権限
遺言に記載された内容を法的に実現するため、相続財産の管理や処分を行う権限を持ちます。 - 預貯金の解約・払戻し
改正後は、金融機関での解約や払戻しを行うことができます。 - 不動産の名義変更(登記手続き)
相続や遺贈に基づく所有権移転登記を執行者が単独で行うことができます。 - 遺贈の履行
遺言で指定された遺贈(財産を特定の人へ渡すこと)を執行者が独占的に行うことができます。 - 通知義務
就任後、遺言内容を相続人へ通知する義務があります(民法第1011条)。
- 相続人による妨害の制限
相続人が遺言執行を妨げる行為は無効となります(民法第1013条)。 - 復任権の拡大
執行者が他者に任務を委任できる権限があります(民法第1016条)。
当事務所では遺言書の作成ご支援をいたします
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遺言書は、人生の集大成として大切な人へ想いを伝える“最後の手紙”です。
財産の分け方だけでなく、感謝の気持ちや願いを形にすることで、家族の絆を守り、相続トラブルを未然に防ぐことができます。
私たちは、法律の専門家としてプライバシー厳守し、あなたの遺言書作成を丁寧にサポートします。
サービス内容
- 自筆証書遺言書・公正証書遺言書の文案作成支援
- 相続人・財産の整理サポート
- 公正証書遺言の公証役場との相談、調整及び公証の立ち合い
- 法務局保管制度の活用アドバイス
- 遺言執行者の指定や付言事項の提案
- ご希望に応じて弁護士、司法書士、税理士など専門家への橋渡し
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